父親はわが子を一生のうちに三度だけ叱れ
父親の本務とはいったいなんでしょうか。
第一に、家族を養い育てる経済力です。
これは前にも書きましたが、父親が自分の職分に全力を傾ける姿こそ、わが子に対する何よりの教育です。
第二は人として社会的責務の遂行があります。
仕事のみならず、地域社会、同志同友のグループ関係において、男にはそれぞれ果たすべき責務があります。
そしてこれを果たさなくては、一個の独立した社会人としての信頼が得られません。
したがって、この信頼を裏切らないように男というものは、時と場合によっては、一身一家の犠牲をあえてする場合さえあり得るわけです。
このように男というものはなんとしても仕事に生き、理想に生きるものなのです。
こういう点について、造物主から防衛本能を与えられている女性にはちょっと理解しがたいかもしれません。
しかし、たとえ十分に分からなくても、この父親が実地に示す生き方をもって、子どもたちへの何よりの遺訓とし教訓とするしかありません。
そして、それを子どもに伝えるのが母親の役目です。
父はその背中で生き様を語る
父親の役割は、自分の人生観に基づいて人間としてその生き方の種まきをするところにります。
そして、そのためにわが子の一挙一動についていっさい小言を言わないことが、父親の根本態度ではないでしょうか。
そこにかえって父親の威厳というものがあるわけです。
まして、よほどのことでない限り、父親は絶対に叱らぬことをモットーとすべきです。
とりわけ、年頃の息子には特に心がけていただきたいことです。
年頃の息子というものは、いわうる「同性の反撥」で、父親と向き合って座ることさえ呼吸が詰まるように思うものです。
それなのに、もし父親が、息子のそうした微妙な気持ちもしらないで頭からガミガミやろうものなら、息子にとっては我慢ならないです。
そのために、ついには家出をして不良少年の群に入ることになりかねないのです。
ですから、子どもが中学の二、三年生から、特に高等学校の三年間は、父親はわが子に対して「絶対に叱らぬ」という決心、つまり怒らぬ覚悟が大切で、ここに父親としての人間修行があるともいえます。
とはいっても、放っておいたらわが子の一生に関わる問題だと察知した事柄に関しては、断固として叱ることが、また父親のあるべき態度です。
しかし、そういう大事な注意は子どもの一生に三度を超えてはいけません。
だからこそ、子どもの生活においても長く忘れ得ない刻印として刻まれ、生き方の一大光明となることでしょう。
それではその他に必要なことといえば、時にはやはりほめることでしょう。
しかし、褒める機会や材料はいくらでもあるものの、さもしいもので、なかなか褒めにくいものです。
しかし、いくら心の中で思っても口に出していわない限り相手には通じません。
そしてわが子の上に現れるその反応を静かに観察するだけの心のゆとりが、特に父親としてはありたいものです。
「家庭教育の心得21 母親のための人間学」(森信三著)4より
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私自身も父親のことが本当に嫌だった記憶があります。
将来、何を考えているんだ。
どこの誰さんはこんなに立派になった。
男というものは・・・。
こんな会話を毎回されて辟易してしまい、なんとか顔を合わせないようにしていました。
私だけでなく、姉、妹も同様でしたね。
父親のありがたみというは本当にわからなかった。
しかし、ある時、父親のありがたみというのがわかりました。
それは父が死に直面して集中治療室で、もうまずい、となったときです。
父をさすっていて初めて気づいたんですが、自分から父の手や足を触ったのは、記憶のある限りはじめてだったんです。
父は中華料理人だったので、肉体を酷使していることは頭では理解していました。
ただ実際に、自転車のチューブのように肉厚な指と、火傷やまめで硬くなっていた手のひらを触り、私はそのとき初めて気づきました。
父がどんなに辛くても何万回、何十万回と厨房に立ち、重い中華鍋を振るって、自分の身を削って私たち家族を養ってくれていたんだと。
父は、息子の私が言うのもおかしいですが、非常に自分勝手で人のいうことを聞かない人で私にとっては反面教師でした。
そんな父が一生懸命私たち家族を養ってくれていた、ということを父の最期になって初めて気づき、どうして今まで気づかなかったのか、そしてお礼を言えなかったのかと後悔し、涙が止まりませんでした。
すでに父はいませんが、父が私に無言で残してくれたメッセージはずっと心に残っています。
私自身も息子に理解されようとは思わず、家族を養うという最低限の役割を果たしつつ、胸を張れる生き様を見せていこうと思います。
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