日常生活のヒント
根本にあるもの
足しげく、森信三先生のお宅へ通っていたある日のこと、悩みを持つ一人のお母さんが森先生を訪ねて来て、先生に深刻な悩みを打ち明けました。
それは高校通学の娘さんがもう何ヶ月も登校拒否をつづけ、家にこもっているとのことでした。
じっと耳を傾けられた先生は「ではこれから私が申し上げることをお母さんは実行できますか。明日と言わず今日から実行できますか」
「それはそれは、もう先生の仰せに従い実行します」と、答えられました。
「では申し上げましょう。ご主人に呼ばれたら、元気よく爽やかな声ではハイと返事をすることです。しかもお嬢さんの部屋に聞こえるように返事をするのです。いいですか、これを実行してください。それで何日目から学校へ行くようになったか、事後報告をして下さい」と。
一週間くらいでの予定のところ、16日後、登校再開されたと聞いております。
広島でも登校拒否で困り抜き、いろいろとカウンセラーに相談をし、四方八方手を尽くしましたが、全くその功を奏さなかった奥様の苦心談をお聞きしたことがあります。
刀折れ矢つきたあげくの果て遂にご主人の出番となり、20分ほどご主人が娘さんに話しされただけで、翌日から登校しだしたとの事例もお聞きしたことがあります。
その他、登校拒否の事例を存じ上げるにつけても、一つの夫婦のパターンがあるようです。
それは、奥さんはいずれも賢婦人型で実力派です。
それに反し、父親のほうは仕事熱心で、真面目な人間だが、コミュニケーションはどちらかといえば下手なタイプのいう夫婦パターンが共通しています。
ですからご夫婦の間で話し合いが全く見られないという状況で、強いて言うなれば、やや母親主導型というところでしょうか。
ですから、母親が自らのあり方を内観し、主人を立て優先重視する態度に切り替えれば、やがて解決する問題です。
非行やいじめについても、一言でいえば愛情不足です。
しかし、もっと詳しい図式を言うなれば、私が尊敬する辻光文先生から教わった石原情性理論です。
石原先生は国立女子教護院の初代院長をつとめた教育哲学者です。
その図式は、
不安定×対象物×機会−自己統制力=非行
①その子にそそぐ愛情の不足 ②その子をめぐる家庭や友達の悪条件 ③しかも自己統制力の欠如がかさなると、非行・いじめ・家庭内暴力の発動となるわけです。
いかにそそがれる家庭的愛情の不足があり、家庭環境が悪くても、自己統制力のある子であれば、その程度に応じ暴発しないということになりましょう。
兵庫県は但馬の養父町に、東井義雄先生門下のすぐれた教育実践者、山根功暉先生がいらっしゃいます。
かつて学校としても困り抜いているT君担当となりました。この子一人のために授業にならず、学級の仲間をいじめ、父兄からの苦情が絶えない状況。
式次第の進行もままならぬということで担任としても困り抜いていました。
ある日、担任の山根先生が足しげく家庭訪問をつづけましたところ大発見をしました。
もとより祖母と二人暮らしの家ですが、なんと野良猫を13匹も飼い、自分の食事を減らしても、その猫たちに食べさせているという心根のやさしさを
見したのです。
さっそくこの事を学級集会を開き、学級の子らに伝えたところT君はついに泣き出し「僕もいい子になりたいんです」と訴え、学級の仲間たちも僕らが悪かったと。
はじめてはみだしっ子と手をつなぐことが出来たということです。
まことに印象深い話です。
日常のヒント
さてこうした事例をふまえつつ、森信三先生から教わった、子育てについての日常実践の心得を語録風にお伝えしたいと思います。
1、人間教育の真の基礎は家庭であり、しかもその八割九割までは実に「母親」の責任です。
2、家庭教育の根本はまず「しつけ」から。
3、しつけの時期をあやまらないように。遅くても小学校入学までにしつけないと手遅れです。
4、父親を軽んじては我が子の人間教育はできません。どうか我が子に対して父親軽視のタネマキをしないように。
5、父親は、何より自分の仕事に、身を粉にしても全力的に取り組む事こそ、男の本分であり、何よりの教育です。
6、我が子の一生にかかわる時こそ父親の出番です。それまでは、一切小言をいわぬ態度をつらぬくべきです。
7、父親は、息子に対し一生のうち、一度も叱らないか、三度だけ叱るか、その態度の確立がたいせつです。
8、子どもの前では、絶対に夫婦喧嘩をしない、を鉄則に。
9、肉体を接する夫婦の間柄にあって、相手を言葉で説教したり、教育しようなどとはとんでもないこと。夫婦のうちどちらかエライ方が相手の不完全さをそのまま黙って背負っていく、という根本態度を確立する他ありません。
10、夫婦というものは、一日に一度は二人きりで話す機会をもつように。その工夫が夫婦円満のひとつの重要なポイントと言えましょう。
11、主人やわが子に対する愛情の態度は、日々の惣菜料理に対して、どれほど心を込めているか否かによって計ることができます。
12、わが子の家庭教育において、いったい何を中心目標にすえておるか。どういう人間に育てたいか、ハッキリしていることが大切です。
13、「心願」とは、心の奥深く密かに「願をかける」気持ちで念じるこころです。しかも親は直接わが子にその心願の内容を話してはなりません。
14、朝起きてから夜寝るまで、つねに腰骨を曲げないで、立て通す。これは性根の入った子どもに対する極秘伝です。
15、「腰骨を立てる」この一事を子どもにしつけられたら、親としてわが子への最高最大のおくりものでしょう。ただし「一切小言を言わない」これを守らないと、逆効果です。
16、女の子のしつけは、男の子より厳しくしなくてはなりません。男の子は、職場で鍛錬される機会がありますが、女子は家庭以外ではあまりその機会がないからです。
17、女の子には「家事」を手伝わせるのが何より大事です。そして女の子にはなるべく外食の習慣をつけないように。そして家族の洗濯物の干し物の整理を手伝ってもらうように。
18、主食はなるべく玄米にしたいですが、少なくとも五分混ぜか七分混ぜにしたいものです。なおおやつとして糖分のなるべく少ないものを。
19、兄弟や友達をひきあいに出してのお説教なんか絶対に言わないこと。本人に劣等感を植えつけ、反抗心の種まきになるだけです。
20、子どもの万引きは、親の愛情の欠乏が根本原因です。
21、家庭学習の一番の土台は、小学一年と二年では、国語の本を毎日必ず朗々と声を出して読むということです。
22、二年生、三年生、四年生の算数は「一つも分からんところがないように」これが算数の土台づくりとして大事です。
23、お互い人間は物の豊かさに馴れますと、とかく心が衰弱していきます。親自ら実践すると共に、子どもにも粗食に耐え、時には「ひもじさ」を経験させることは、親としての真の愛情です。
24、わが子に「物を大切に!」のしつけをすることは、まことに容易なことではないですが、何か一つの物にしぼり、一事をつづけて、その物の最大活用を会得させるのです。
25、「ほめるということ」は、受け入れ態勢にさせるコツです。下に向いたコップを上向けにさせる卓効をもつものです。植物だけでなく、人間の成長にも欠くべからざる第一必須の根本条件です。
26、叱るということは「三つほめて一つ叱る」どころか「八つほめて二つ叱る」でもいけません。「九つほめて一つ叱る」くらいでなければ。まだそれでもほめ方が足りないくらいです。
27、わが子の年齢や学力に応じて、それにふさわしい俳句や短歌や詩などを選んで、それを子どもに与え、できたら親子ともども暗誦するようになったとしたら、ほぼ理想に近い情操教育でしょう。
28、テレビ対策を、各家族において確立することこそ、いま一番の急務です。①幼児をテレビに近づけないこと。②子どものテレビ視聴時間を三十分くらいにすること。③テレビの置き場所は、応接間もしくは老人の部屋に。
29、母親の真の愛情とは、子どもの気ままな要求を容易に受け入れたり、欲しがる物をたやすく買い与える事では断じてありません。
30、母親は家庭の太陽であると共に、民族における大地に比すべきものです。女性の変質は民族の変質につながります。それほど民族の将来は母性の在り方如何によってきまるとも言えましょう。
以上について詳しくお読みになりたい方は『わが子の人間教育は両親の責任』ー家庭教育二十一ヶ条ーをごらんください。
「三つのしつけ」 ー親も子も共に育ちましょうー 第七章(寺田一清著)
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愛情欠乏と言われるかもしれませんが、私の家庭では息子がイヤと言って、駄々をこねると、距離をおきます。
距離をおきます、というと聞こえはいいですが、実際のところは少し見放します。
「じゃあもう知らないね。パパ先に行っちゃうから」と言うと、寂しくなるのかついてきて言うことを聞きます。
ただこのやり方が果たして子供にとっていいのか、と考えることがあります。
言うことを聞かないと、面倒をみないぞ、と軽く脅していて愛情欠乏への恐れを利用しているのではないかと思うからです。
もちろん、それでも、言うことを聞かない時があるわけですが、そうなったらさすがに戻ってきて抱っこをして移動します。
言うことを聞いてもらわないと、現実問題として何も進まず、時間だけが過ぎていく、という問題もあるわけで…
なるべく息子のために時間を費やしていきたいと思いますが、このバランスが非常に難しいなぁと感じます。
みなさんはどうしているんでしょうか?
頻度の問題かもしれませんが、愛情を引き換えに言うことを聞かせる、というやり方はいいんでしょうか?
そしてそれ以外の方法ではみなさん、どうやって子供に親の意図を理解してもらって行動してもらっているんでしょうか?
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